SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、地球上の人類共通の目標として、2015年に国連総会で採択されました。それでは、SDGsの達成に対して、宇宙はどのように貢献しているのでしょうか。
宇宙には、大きく分けて以下の三つの「地球にはない新たな価値」があり、それらが地上の課題解決に資する新たなソリューションを生み出しています。

1.概観効果
宇宙から地球を眺めることにより、人類は新たな視座を得ました。1972年にアポロ17号の宇宙飛行士が撮影した地球の全球写真は、地球の美しさだけでなく、紙のように薄く見える大気、そして地球環境の脆弱さを私たちに強く印象づけ、多くの環境保護運動に活用されてきました。地球を外側から眺めることで、すべての生命が相互につながっていることに気づき、地球環境を守る責任感が生まれるとも言われています1)。宇宙旅行が普及すれば、宇宙飛行士だけでなく、多くの一般市民もこのような体験を得ることが可能になります。
そして、地球環境を宇宙から広域的に観測する技術や、地上の活動を宇宙から測位・管理する技術など、さまざまなソリューションが生まれています。加えて、宇宙から世界中をつないでいる通信・放送衛星は、低軌道衛星による低遅延・大容量のインターネット通信、さらにはスマートフォンとの直接接続の開始により、情報格差の是正への貢献も期待されています。
2.極限環境
宇宙では、地上では得ることができない、あるいは極めて困難な環境を利用することができます。
例えば、ISS(International Space Station:国際宇宙ステーション)で生命科学や素材開発に活用されている微小重力環境は、地上では安定的に実現することができません。また、宇宙ではごく一般的な高真空や極低温の環境は、半導体開発などに有用である一方、地上でこれらを継続的に維持することは容易ではありません。ISSでは、微小重力を利用した医薬品や新素材の開発、iPS細胞の培養などに加え、地上では製造が困難な製品、例えば高性能光ファイバーであるZBLANの宇宙生産の試みも始まっています2)。さらに近年では、極低温環境を活用した宇宙データセンター構想など、新たな応用も提案されています。
3.限界超越
宇宙には、地上では常識とされている重力や大気といった制約が存在しません。宇宙を起点に物事を考えることは、私たちを縛っているさまざまな制限を超えて地球を捉え直し、新たな視点でソリューションを創造することにつながります。
例えば、化石燃料が存在しない月面で活動するために、月の水を電気分解して得られる水素を基盤とした、省エネルギーかつ循環型のエコシステムの研究開発が進められています。地球から月へ物資を輸送するコストが非常に高いことから、持ち込んだ資源を極力リサイクル・リユースする、究極の省資源・再利用型システムの構築が不可欠となります。これらの成果は将来的に地上へ展開され、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の構築に大きく貢献することが期待されています。
参考文献:
- Frank White: Overview Effect (4th Edition), 5, Multiverse Publishing (2023)
- National Aeronautics and Space Administration (NASA): Optical Fiber Production, https://www.nasa.gov/missions/station/iss-research/optical-fiber-production/ (2024)
